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*もし赤頭巾に父がいたら

※夜兎の駄文であり偏見が含まれるうえ、悲劇的かつ不可解な終わり方をします。

 

 

 

 

 

「なんということだ!」

 

彼は両手で顔を覆って呻いた。

彼が帰宅した時、家に明かりは無く、誰もいないものだと思うほど静かだった。

しかし暗い部屋には彼の妻がいて、彼の姿を見た途端、妻はわっと泣き崩れた。

さめざめと泣く妻の肩を抱き彼が問えば、妻はかすれた声でそれを告げた。

彼は娘の悲報に接したのだった。

 

激しい衝撃の後に湧いてきたのは、後悔と言いようのない怒りだった。

彼は猟師だった。

もし娘が出掛けることを知っていたら、もし自分がその場にいたなら、と変えることのできない過去の情景を際限なく繰り返す。

そうするうち、気づけば彼は手に銃を取っていた。

 

 

「待っていろ」

 

 

見えない相手に呟けば、もうたったひとつのことしか考えられなくなっていた。

何かの衝動に突き動かされるように、彼は家を飛び出す。

彼は夕闇迫る森を駆けた。

その目は復讐に燃えていた。

 

狼を見つけ出すのに、それほど時間はかからなかった。

狼の姿を捉えた瞬間、彼は吠えた。

 

 

「動くな!」

 

 

猟銃を突き付けられた狼は、平然と言った。

 

 

「これは何の騒ぎかね?」

 

「とぼけるんじゃない」

 

 

彼は歯を食いしばり、声を絞り出す。

 

 

「私の娘を返せ」

 

 

狼は銃口を見て言った。

 

 

「わしを撃つのかね?」

 

 

ずらりと並ぶ牙をむき出して、相手は笑った。

狼の態度に、彼の銃を持つ手に力がこもった。

 

 

「何が言いたい?」

 

 

狼はひとつ息をついた。

 

 

「お前さんは獣や鳥を殺すだろう。皮を剥いで、鍋で煮込んで、食べるだろう。わしは確かにお前さんの可愛い娘を食べた。だが、わしとお前さんと、一体如何違うのかね?」

 

「それは」

 

 

彼はたじろいだ。

一体、狼に何を言われているのか、混乱した頭ではわからなかった。

狼は言う。

 

 

「生きるために食べて、何が悪いというのかね」

 

「それは」

 

「わしだけを責めるのかね」

 

「それは」

 

「お前さんもそうそうわしと変わらんだろう。お前さんもどこかで、誰かの娘を食べているんだ。その銃で撃って、皮を剥いで、鍋で煮込んで」

 

 

彼は逆上した。

 

 

「違う!」

 

 

猟銃が火を噴いた。

あまりにも呆気なく、狼はどさりと地面に崩れ落ちた。

荒い息のまま、彼はただの物体と化した狼を見る。

じわじわと広がる液体は、娘がかぶっていた頭巾のように真っ赤だった。

鮮やか過ぎる赤の前で、彼はがっくりと力無くその場に座り込む。

目の前がぼやけた。

 

 

「許してくれ」

 

 

彼は言った。

それが自分の娘に向けた言葉だったのか、狼に向けた言葉だったのか、誰かの娘に向けた言葉だったのか、彼にはわからなかった。

彼の手から滑り落ちた猟銃は、地面に転がった後も細い白煙を上げていた。

 

 

 

文学の宿題でございました(・ω・;)

何気に先生に好評いただいて驚きました。

こんな悲劇的な文に評価Sつけちゃって良いんですか先生?

文学の授業は大好きです!